朝、僕はいつもと同じ時間に、いつもと同じように起床した。
窓の方向を少し見てみる。カーテンで閉じこめられた朝日があふれ出てしまうと思うくらい明るかった。
今日も、一日頑張ろう。そう思い、勢いよく布団を自分でめくった。
足に力を入れて立ち上がろうとした瞬間。僕の足に何か固いものが当たった。
ソレを見た瞬間とても驚いた。寝ぼけていたのかと思った。でも目覚めのいい僕が寝ぼけるはずが無い。

そこには卵があった。
「ほあ?」
自然と声が出ていた。あくびも少し混ざっていた感じの声だった。
僕は、首をぐるんぐるんと回した後、もう一度ソレを見た。
「たま・・・・ご?」
どうみても卵だった。ハマコーではない。「卵」だった。ハマコー浜田幸一
人間が卵を生むのかはわからなかったけど、確かに俺は卵を産んだんだと思う。尻が凄く痛い。
僕は痔なので尻が痛むのはいつもの事だったけど、今回はシャレにならないほど痛かった。
尻の痛みのおかげなのか、僕は完全に目を覚まし、この「卵」のことについて色々考えた。
最初は、「男も卵を産むのか。」とか、「何が生まれるんだろう。」のようなことが頭に浮かんだ。
でも、そういう考えをしているうちにある疑問が生まれた。
「しっかりズボンはいてるじゃん。ぱんつも。」
そうなのだ。僕はズボンをはいている。
普通、この状態で卵を産んだのなら衣服の中に卵があるはずだった。
と、いうことは考えられることは二つあった。
一つは、誰かがいたずら目的で置いたということ。
これは一番現実的かも知れないなぁと思った。僕にはイタズラ好きな妹がいる。きっとそうだ。
もう一つは僕が尻だけ出して寝た。ということ。とんだプリケツ大魔王だ。ハマコーもこんなことしない。
でも、僕はいつもお腹を出して寝るクセがあるので100%無い。ということはないと思う。
・・・・軽く悩んだところで僕は、そんなことどうでもいいじゃないか。と思った。
産んだんなら産んだで育てればいいし、イタズラなら妹を叱ればいいじゃないか。深く考えることはない。
きっと僕はこの卵を産んだのだろう。これが母性本能ってやつなんだと思う。
そんなことで、僕はなぜかこの卵にとても愛着が湧いてしまった。

「この卵は絶対に孵化させてあげよう。」
と、独り言も言ってしまった。我ながら恥ずかしい。
育てる上で僕は何かを忘れているような気がした。愛情だけじゃダメだ。もっとこう具体的な何かだった。
「あ、名前もつけてやらないとな。」
そうそう名前名前。名前がなきゃだめだぞよくやった僕。
3分くらい考え、名前が決まった。白美だ。

白くて美しいから「白美」。それと卵の白身とかけてある。我ながらいい名前だと思った。逆から読むと「美白」。
でも、僕が生まれた時に、アゴが長いからお前の名前は「アゴ男」だとか言われたら僕は母の腹に戻る。
多分ハマコーも怒る。ムルアカも怒る。
名前も付けて安心したのか、ふと時計を見てみた。時間は8:30ちょっと過ぎ。
「そうだ部活!部活だよ部活!!!」
僕は卓球部に所属していた。今日は午前練習だった。このままじゃ遅刻してしまう。
白美は心配だったけど家に置いていくことにした。卓球のボールと間違われてスマッシュしてしまいそうだったから。
白美は僕のベッドの上に置いておいた。
 
 
部活にはあまり集中できなかった。白美のことが心配だったからだったから。
ボールでさえ、白美とイメージがかぶってしまい、打てなかったときもあった。
そして、自転車で早々と家に帰った。
卵は命を具現化したようなものだな。と思った。
柔らかい中身は外の殻に頑丈に守られていて、その中で未来あるものが眠っている・・。
「命」のことをまだそこまで理解している訳でもなかったけど、なんとなくそう思った。
帰ったら新しい名前でも考えてあげようかな。とも思った。
やっぱり白美はかわいそうだったから。今度は「黄美」にでもしようかな。
と思ったところで自分のセンスの無さに口元がにやけた。あとハマコーというあだ名を考えた人もセンス悪いと思う。
とにかく家に帰ったら白美を温めてあげよう。
 
 
家に帰ると、母が昼ごはんを作っていた。何かを焼いている。
「あ、おかえりー。今さ、オムライス作ってるんだー」
母は楽しそうに僕に言った。
「美味しそうだねそのオムラ・・・・・・・あ」
僕は気付いた。
オムライスといったら卵じゃないか!!!
一瞬最悪の事態が頭をよぎった。
僕は床から弾かれるように走りだし、これ以上無い速さで階段を登った。
後ろから母の「走っちゃだめだよー」という声が聞えたけどそんなことはどうでもいい。
そして僕は自分の部屋に入った。
ベッドの上を見るのが怖かった。見たら白美がいなくなってそうで。
ゆっくりと。本当にゆっくりとベッドの上を見た。
白美はそこにいた。
僕は安心からその場に座り込んでしまった。
もう置いてったりしない。と誓った。
そして下に行くと母親のオムライスが完成していた。
僕はオムライスよりオムレツのほうが好きなので、手に持っていた白美でオムレツを作って食った。

卵は、玉子に変身したと言ってもいいだろう。
急にトイレに行きたくなり、オムレツを置いてトイレに行った。
戻ると飼ってる犬に食われてた。吹いた。
 
 
 
 
俺「・・・って感じ。『卵』と『玉子』の違いは、調理してあるかそうでないかの違いなんだよ。」
妹「短くまとめろよ糞兄貴」
弟「2へぇ」