※作品中の顔は、10歳の妹が僕と長女の似顔絵を描いたものを使いました。
――あれは、僕にとって15回目の夏の出来事。
忘れようとしても忘れられない、ひと夏の甘酸っぱい思い出――
『一夏のあやまち』
8月に入り、夏休みも後半に突入した。
15歳の青春真っ只中を送っている中学生の僕は、溜めに溜めこんだ宿題を片付けることにこの青春を消費している。
15歳といえば、色々と挑戦したくなるお年頃、というのはわかる。
スポーツ、部活動、勉強・・・そして「恋」・・・
俺もその青春を生きる少年として、様々なことをしてきた。
スポーツもしてきたし、部活動の卓球の大会でもまずまずの成績を残した。
勉強は・・・まあ、今もやってる訳だし・・・。
しかし「恋」・・・。これだけはなんとも経験できない。
恋というものを産まれてから一度もしたことがない俺は、「恋に落ちる」という気持ちが理解できない。
恋という行為を人一倍経験している友達が言うには、
「恋なんてぇ、一目ぼれっしょ。 一発で落ちるもんよぉ。なあ?」
と、彼女らしい女性を右肩に抱きながら言っていた。 その時ほど彼の似合わない髪止めをへし折って両鼻の中に突っ込んでやりたかったことはない。
・・・そんなことを考えながらペンを走らせても、真夏の熱風と相まって嫌な汗をかくだけだったので、俺は気分転換として散歩にでかけることにした。
暑い。 暑すぎる。
よくよく考えれば、じっとしているだけで汗をかくのに、散歩などしたら余計汗をかくだけではないか。
自分の浅はかな考えに少し嫌気がさす。
俺 「暑い・・・太陽は俺にどんな恨みがあるってんだ・・・」
あまりの暑さに頭をやられたのか、散歩中に全裸の男が大声を上げながら走っていた。 今日も日本は平和だ。
その後、ダラダラと歩いていると、俺は何かにつまずいた。
俺 「うあっ!!」
? 「きゃっ!!」
・・・妙だ。 転んだ俺の他にも声が聞こえたような・・・
そう、まるでか細い、子猫のような声が・・・
そう思いながら、俺は地面とゼロ距離になった頭を起こす。
するとそこには、とても可愛い女の子が地面に埋まっていた。
「一目惚れ」だった。
オープニング曲↓
とりあえず俺はこの地中に埋まっていう女性を助けることにした。
初めて触る異性の腕は、柔らかくて、そしていい香りがした。
俺 「よいしょ・・・おらあああ!!」
女 「ちょ、そんな引っ張っちゃ・・・あぁあん!!」
ズボッ
地面に埋まっていた女性は、勢いよく引き上げられ、盛大に尻もちをついてしまった。
俺の目は、盛大に開かれた女性の足の間を凝視していた。
俺 「パ・・・パンティ・・・ブハーっ!」
女性「ちょ、ちょっと! エッチーー!」
その瞬間、女性の右ストレートが俺のアゴに直撃。
ゴンッ、とニブい音と共に俺の目の前は真っ暗になった。
目が覚めると、俺の視界には心配そうに俺の顔を覗き込む女性の顔があった。
俺 「うう・・・こ、ここは・・・」
女性「よかったー! 気が付いた!? ここは私の家だよ!」
そこは重厚な雰囲気の和室・・・日焼けした畳に白い障子。 つややかなテーブルの横に敷かれた布団に俺は寝ていた。
俺 「運んでくれたの・・・か?」
女性「うん・・・ごめんね。 私実は世界女子プロボクシングのチャンピオンなんだ・・・」
女性「ア、自己紹介がまだだったね! 私の名前は『夏美』! よろしくね!」
俺 「お、俺の名前は・・・『あるふぁ』。 あるふぁっていうんだ。」
夏美「へぇ、不思議な名前ね。」
俺 「親がどうかしててさ・・・」
夏美「はは、おもしろぉい」
名前をギャグとして受け取られたのは初めてだった。
俺 「・・・それにしてもなぜ、地面に埋まっていたんだ・・・?」
夏美「ああ・・・ごめんね・・・ちょっとした体質なんだ・・・」
俺 「体質・・・? 急に体がドリルのように回転するとか・・・か?」
夏美「ううん、違うの・・・なんていうか・・・・・・」
俺 「・・・・」
夏美「・・・・・・あ、なんかごめんね! そうだ、テレビでも見ようか!ね!」
気まずい雰囲気の中、それを打ち消そうとしたのか夏美はテレビをつけた。
スイッチを押され映し出された画面には、険しい顔でニュースを読むキャスターが映し出された。
キャスター「次のニュースです。 暑さの影響でしょうか、最近路上で全裸になる男性が多くなっています。」
なるほど。 そういえばさっきも全裸の男が道を走っていたのを思い出した。
しかし、この暑さなら仕方がない気も・・・しないでもない。
俺 「最近も物騒になったもんだなぁー」
夏美「そうね・・・・」
夏美は今にも泣きそうな顔でそのニュースを見ていた。 そりゃそうだ。路上で全裸の男が走り回っていたら女性である夏美はさぞかし怖いことだろう。
その後、俺達は色々な事を話し合った。
学校の事、部活の事、友達の事、遊びの事、自分達のこと・・・
話を聞いてわかったことは、夏美さんは俺と同じ中学3年生。
旅行として、地方からこちらにある祖母の家に泊まりにきているらしい。
俺 「と、いうことは、そのうちまた地方に帰っちゃうのか?」
夏美「うん・・・実は、明後日には田舎に帰らないと・・・」
俺 「そうか・・・・」
俺はとても悲しかった。 何て言ったって俺の初恋の相手、会えなくなるのはとても残念だ。
夏美「・・・あのさ!」
俺 「んあ、どうした?」
夏美「明日・・・暇?」
俺 「え・・・おう! 暇! 暇すぎて死にそうだよ!」
明日は近くのジャスコでぶらぶらする予定だったが、それはまた今度にしよう。
夏美「明日暇だったらさ・・・一緒にここら辺を案内してくれない・・・?」
俺 「えっ・・・」
夏美「ほら! やっぱりこうやって会ったのも何かの縁だしさ!」
俺 「そうだな! よし! 明日はここらへんを案内しまくってやるから覚悟しとけ!」
夏美「ワーイ!!」
俺は夏美と一緒にデートをすることになった。
なんだ、案外俺は青春を送れているじゃないか!
この日ほど明日が待ち遠しかった日はない。
そして次の日、早朝4時という殺人的な早い時間帯から俺は夏美と一緒にデートを開始した。
最初は二人でおしゃべりをしたり、
地元の名産品を二人で食べたり、
遊園地に行ってジェットコースターに乗ったり、
不良に絡まれた時も、恐怖で身体が震える中、俺が助けた。
しかし、楽しい時間はすぐに過ぎてしまう・・・もう夕暮れだ・・・。
別れは惜しいが、時間には逆らえない。
夏美「今日はとっても楽しかったよ!!!」
俺 「俺も・・・すごく楽しかった!!」
夏美「明日の早朝には出発しちゃうんだ・・・だから会えるのも今日までだね・・・へへ・・・」
俺 「ちがう・・・」
夏美「え?・・・・」
俺 「また・・・来年も来てくれよ! な・・・?」
夏美「うん!」
とてもいい雰囲気だ。 これはキスの流れだ!!
そして頃合いを見計らい、俺は昨日の晩からずっと練習してきたあの言葉を言う。
俺 「・・・キス・・・しないか・・・?」
夏美「え? ・・・でも・・・・私・・・アッ!」
絵
俺は、夏美の言葉をさえぎるように、口づけをした。
夏美「ん・・・・」
シュゴッ
夏美さんが突然地中に埋まった。
パーン!
そして僕の服が突然弾けた。
俺が唖然としていると、夏美さんはこう言った。
夏美「実は私、キスをされると相手の服を切り裂きながら地中に埋まってしまう体質なの!!」
・・・
そうか、そういうことだったのか。全ての謎が解けた。
僕は夏美さんに別れを告げ、恥ずかしさのあまり大声をあげながら走って家まで帰った。
その日のニュースに、裸で街を走り回る俺のことが紹介されたのは言うまでもない。
え? その後、夏美さんはどうなったかって?
きっとまた、別の男の子に掘り出されていると思うよ。
一夏のあやまちと一緒にね。
「一夏のあやまち」 完